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 議事録


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衆議院-法務委員会


平成18年03月31日

[医療において刑事責任を問われる基準等についての質疑]


○枝野委員

 民主党の枝野でございます。

 大臣の参議院での発言をやろうかなと思っていたんですが、それ以上に急ぐ事案として、福島県立大野病院の産婦人科のお医者さんが業務上過失致死罪で逮捕され、起訴されたという事件があります。これに対して、産婦人科関連のお医者さんたち、産科の関係者に限らず医療関係者の方から相当な抗議あるいは危惧、不信、さまざまな声が上がっております。この問題を取り上げたいというふうに思っています。

 この件では、出産、分娩に当たってお母さんが亡くなられております。まず、そのことには心より御冥福をお祈り申し上げたいというふうに思います。

 それから、私ごとですが、あえて申し上げますと、私も今、妻が妊娠五カ月でありまして、しかも、少しリスクがあると医者から言われておりまして、本当に、この亡くなられた患者さんあるいはその御家族の思いというものを、私も今非常に不安でおりますので非常に理解をするところであります。

 また、さらに申し上げれば、かつて薬害エイズ事件というところで私は、むしろ医者の刑事責任をちゃんと問うべきではないかということをかなり厳しく厚生委員会でやった、その基本的な立場、認識は私は変わっておりません。ただ、本件については、かなり広範に、それも具体的な利害関係があるとはとても思えないところからも、こんなことでいいのかという声が上がっているという現実、それが日本の医療、特に僻地医療や産科医療などに対して本当に大きな影響を与えるのではないかという状況になっておりますので、個別案件についてですが、あえてお尋ねをしたいと思います。

 お答えになれればお答えいただきたいんですが、この事件は、患者さんが亡くなるという事故が起こってから一年ぐらいたつまで、警察の捜査はありませんでした。それなのに、あえて捜査が急に動き出した。何らかの捜査の端緒があるのではないかというふうに普通は受けとめるんですけれども、それは何かあったんでしょうか。

○河野副大臣

 御指摘の事件は、警察から送致があったと承知しております。

○枝野委員

 では、検察を所管する法務省で把握、確認できる話として伺いますが、それでは、これは亡くなられた方の遺族から被害届あるいは告訴、告発などというものが先行してあった事件なんでしょうか。

○杉浦国務大臣

 答弁に入る前に、先生、おめでた、おめでとうございます。

 お尋ねの件は、現在公判係属中の事件の具体的な証拠関係にかかわる事柄でございますので、法務大臣としてお答えを差し控えさせていただきたいと思います。

○枝野委員

 そういう一般的な御答弁だろうなとは思います。である以上は、私も、この事件が具体的にどういう事件であるのか、つまり、逮捕、起訴し、刑事処分に処すべき事件であるのか、それともそうではないのかということについての事実関係を把握している立場ではありませんし、ここでお答えいただけないという話ですから、そのことについて具体的にやろうとは思いません。

 もちろん、医療ミスと言われるものの中には、本当に専門的に、これを犯罪として問うのがいいのかどうか、そのことをお尋ねしていくわけですが、そういう事案もあれば、それこそおなかの中にガーゼとかはさみとかを置いてきてしまったというような、これはもう素人が見たって、そんなミスはないだろう、それはお医者さんの責任を問わざるを得ないじゃないかという事案まで、こんなに幅があります。これが、本件がどこに位置するのかということは私も理解をしておりません、把握をしておりませんし、そのことを問うつもりはありません。

 ただ、いろいろと背景になっている状況や、そのことの行政的に影響を及ぼす、社会的影響の部分のところは、これはその範囲のどこにあるにしても問える話だと思いますので、問わせていただきます。

 まず、厚生労働省、政務官に来ていただいておりますが、この大野病院というのは産科のお医者さんがたった一人で対応していたというふうに報道その他されておりますが、これは間違いありませんか。

○西川大臣政務官

 どうも枝野先生、御質問ありがとうございます。

 私も、このたびのこの事件の患者さんに対して、厚生労働政務官という立場で心からお悔やみ申し上げたいと思います。まず最初にそのことを申し上げたいと思います。

 御質問に関しましては、確かに産婦人科医は一名でございました。ただ、当該手術に当たっては、助手として外科医師がついていたという現状でございます。

○枝野委員

 この大野病院、これは福島ですか、過疎地という言い方がいいんでしょうか、ということで、特に、本件は帝王切開だったそうですが、こうした帝王切開のような手術ができる産科のお医者さん、病院は周辺になかった、非常に遠隔地までなかったというふうな報道がされていますが、これも事実関係を厚生労働省は把握しておられるでしょうか。

○西川大臣政務官

 実は、帝王切開という手術は産科の中ではそう難しいことではないという認識が通常あります。ですから、そういう中で、県や国に対しての報告義務というのはないんですね。

 そういう中で、実施の状況の詳しい実数みたいなものは把握できていないんですが、このたび、やはり産科医療、周産期医療の大変危機的な状況に対して危機感を持ちまして、産婦人科の常勤体制の調査というのが厚生労働科学研究費において調査がされまして、そういう中では、大体二名以上の産婦人科医師が勤務する病院ということでは、県立大野病院の属する福島県の浜通り地区という沿岸部の地域がありますが、そこに四カ所ございます。そして、周産期の高度母子医療センターということであれば、一カ所ございます。

○枝野委員

 具体的に通告しておりませんでしたので、お答えになれなければあれなんですが、その浜通りの四つの病院とかというのは、この大野病院のある地域からどれぐらい離れているんでしょうか。福島の方だったら地理的にわかるのかもしれませんが、わかる範囲でお答えください。

○西川大臣政務官

 このいわき市市内に、実は、いわき市と、その大野病院があるのは隣の郡でございますので、常識的に見てそうかからないあれだと、一時間以内ではあると思いますけれども。

○枝野委員

 最近は変わったようですけれども、かつて私が学校で地理を習っていたときには、いわき市というのは多分日本で一番大きな市と言われていたところでありますから、隣の郡ということは、それはかなりの距離があるのではないかと逆に思います。そこは具体的なところまで通告しておりませんので、それはそれで結構ですが。

 今回も、結局は、その大野病院の今回逮捕されたお医者さん、その地域では、もともと若干のリスクがあるのではないかという患者さんだったようですから、そうした医療をやるところが近くにはない、少なくとも車で相当行かないといけないところにしかないという中で、まさに地域の、拠点という言い方をすると、厚生省も病院にいろいろな名前のつけ方をしますから正確ではないかもしれませんが、そして、しかもたった一人でお産をやっていた。

 最近、自然分娩でも、いろいろな医学のあれで、休みの日とか夜には出産しないで済むようにという、いろいろあるそうではありますけれども、基本的には、出産、お産というのはいつお医者さんが必要な状況になるかわからないという状況の中でたった一人でやっているということは、逆に言うと、二十四時間いつ仕事になるかわからないという状況でずっとやっているわけですね。こういう地域が実は日本じゅうに相当あるということが、今度の事件を機に声が上がっています。このあたりのところを厚生労働省はどういう把握をしているんでしょうか。

○西川大臣政務官

 先生も奥様が妊娠五カ月ということで、大変この問題には、きっと多分、人ごとではない、そういう思いもおありだということは十分承知しております。

 厚生労働省の方でも、本当に産婦人科医の確保の厳しさという、特に大きな大都市はともかく、地方においてはそういう声をたくさん聞いているのは事実でございまして、そういう危機感のもとに、一応、日本産婦人科学会が調査した結果でございます、その中では、大学関連分娩取り扱い病院が全国九百二十七カ所のうち産科医一人体制の病院が百三十二カ所、全体で一四%ぐらいがそういうところがあるということを把握しております。

 やはり、正直申し上げまして、今回の産科なり小児科、救急医療、あるいは外科も少々このごろは厳しいという話もありますが、そういう中で、厚労省としても全国的に専門の医師がどのくらいかというのを把握していない面がございます。そういう意味で、これから一つの課題として、しっかりその危機を感じながら対応していきたいと思います。

○枝野委員

 今回の事件は癒着胎盤という事例であって、しかも前置胎盤に癒着胎盤が合併したケースであるというふうに伝えられております。この癒着胎盤というのは、医学の世界の中での統計といいますか、全分娩の中でどれぐらいの比率を占めているのか。まして前置胎盤に癒着胎盤が合併するというようなケースはどれぐらいあるのか。相当低いと報道されておりますが、厚生労働省はどういうふうに把握しているでしょうか。

○西川大臣政務官

 今御指摘の癒着胎盤の発生頻度、これは、実は正確に全部が把握されているわけではございません。そういう中で帝王切開歴とかそういうのを検証した結果として、最近では、ちょっと幅があります。二千五百から一万分娩に一例、約〇・〇四%から〇・〇一%、十万人生まれる中で十から三十、四十例だということ、その中の前置胎盤のうち癒着胎盤を合併する頻度というのはさらに低くなって、そのうちの三から五%というふうに把握しております。

 ただ、癒着胎盤というのを事前に予見できるかどうかというと、かなりMRI等で発見できる可能性はなくはないんですが、大変確実に診断できるということはまだ可能ではないという状況にあるのは事実です。

○枝野委員

 もう一問厚生労働省に。

 そうした前置胎盤で癒着胎盤で、そうすると帝王切開で手術をしても、胎盤を剥離させるというんですか、切り離すというんですか、その部分のところが今回の事故にもつながっているということらしいんですが、こういう場合にはこうするんだというような、我々でもわかるのは風邪だったらPLという薬を出せとか、これぐらいのことは我々もわかるわけですけれども、要するに医学界のスタンダードというか、別に厚生省が決めていなくてもいいんですけれども、例えば産科学会とかのところで、こういうケースではこういうふうに対応するべきだなんというスタンダードな指針とかそういったものはあるんでしょうか。あるんでしたらば御紹介をいただきたいと思うんですが。

○西川大臣政務官

 確かに厚労省として出しているわけではございませんが、日本産科婦人科学会による学術雑誌に癒着胎盤が疑われる妊婦の一般的な治療について、例はまれであるが一つの知識として「産婦人科研修の必修知識二〇〇四」というのに指針が載ってはおります。

○枝野委員

 そこで、今度は起訴をした検察、法務省の話に入っていきたいんですけれども、医療過誤と称されるケース、つまり、お医者さんが診療に当たって過失があって業務上過失致死傷に問われるというようなケースの、この過失の有無の判断ということについては、一定の確立された判例などがあるんでしょうか。例えば、この後、村井同僚議員がお尋ねする富山の尊厳死の話については、尊厳死などの要件とか、あるいはそもそも死の要件とか三徴候説とか、一定の確立された判例の世界というのがあるわけですけれども、この医療ミスにおける過失の判断基準についての判例というのが一定のものがあれば御紹介をいただきたい。

○杉浦国務大臣

 判例でございますが、最高裁判所が民事事件におきまして、注意義務の基準となるべきものは診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であると述べておられます。平成七年の判例でございますが。

 また、文献によりますと、予見義務の基礎となる予見可能性を判断するに当たっては、医療行為が行われた当時の一般の医師が有している医学的知識、能力が基準とされると述べられております。

○枝野委員

 今回は特に刑事だから問題なので、本件の場合も、報道によると民事的な病院としての責任といいますか、そこのところは、もう警察などが動き出す前にいろいろ整理をされているというふうにも聞いておりますので、あくまでも民事と刑事は基準が違いますから、刑事の方の問題だと思いますが、今御紹介のとおり、一般の医師の能力、知識を基準とするというのが一般的である、私もそう思います。

 そうすると、一般の医師の能力、知識というのがどの程度であるのかということがわからなければ、そもそも過失の有無は判断できないというふうに思いますが、これは法務省に一般論と本件と両方について聞きたいと思います。

 一般的に、起訴をするに当たって検察官は、まさに医学、一般的な医師の能力や知識を知らなければ、つまり一般の医師と同じ知識を持たなければ逆に言うと判断できないということになるわけですが、当然、検察官にそんなトレーニングをしているわけじゃありませんから、本人にはそういう能力はないはずです。そうすると、それをどういう形で検察庁は必要に応じてその知識を得ているのか、本件の場合はどういう調査をして起訴に至ったのか、この二点、お答えください。

○杉浦国務大臣

 もちろん、あくまで一般論でございますが、検察官は医師じゃございませんから、担当した個々の具体的事件の捜査に当たりましては、専門家から教えていただいたり文献を読むなどして必要となる専門知識を得るようにしておりますし、また研修等を通じてもこのような知識の習得に努めているというふうに承知をいたしております。

○枝野委員

 本当にそれで大丈夫なんですかという話なんですよね。

 例えば、これは福島で起きました。福島でお医者さんが医療ミスで起訴をされたなんというケースは、恐らくないんじゃないでしょうか。つまり、担当の検事にとっては、自分自身もあるいは周辺の同僚その他も含めて、同じようなケースに当たったことがないのではないだろうかと思います。

 例えば、東京地検であればいろいろな医療過誤事件の蓄積なども一定程度あるでしょうし、そうした経験のある仲間、先輩の検事がいたりということもあるんだろうと思いますが、本件の場合、福島という、ここに検察官が何人いるか。私も二十年ぐらい前の記憶ですから正確じゃありませんが、そんなに数はいなかったと思います。そういうところで、この〇・〇四から〇・〇一のさらに三%から五%しかないようなレアケースにおいてお医者さんが持つ一般的な能力や知識というのがどういうものかというのは相当な専門知識だと思うんですが、どういうふうに把握をして起訴に至ったんですか。

○杉浦国務大臣

 福島という地域のことについては私もつまびらかには存じておりませんが、一般論としては先ほど申し上げたとおりだろうと思うんです。

 先生も弁護士でいらっしゃるし、私も弁護士で、医療過誤の相談、事件の担当もしたことがございますが、私、医学のことはわかりませんから、できるだけいろいろなことを勉強して相談に乗ったりし、どうにも手に負えないときは、医療過誤専門の弁護士がおりますから、そういう人に依頼をして担当するというふうにしておったんですが、検察庁も、これは同一体の原則で、応援、専門家の紹介等、福島にとどまらず、いろいろとして、もちろん起訴ということは非常に重要なことでございますので、万遺漏なきを期しているものと承知をしております。

○枝野委員

 これは、後のことを考えると大事なことなんです。つまり、今回のことが福島県警や福島地検が単独で、もちろん権限としては単独でやれる権限があるわけですから、やったのか、それとも、今何となくふわっとおっしゃっていますけれども、例えば警察庁を通じて最先端の情報その他を把握したり、あるいは検察庁全体を通してこれが本当に起訴に値するのかということをしっかりとやったのか、それとも単独で現場でやったのか、これは大きな違い、後々のことを考えると違いますが、どっちなんですか。

○杉浦国務大臣

 お尋ねの件は、個別の事件における捜査機関の活動についてのお尋ねでございますのでお答えを差し控えさせていただきますが、万遺漏なく検察庁として対応しているものと承知しております。

○枝野委員

 では、もう一点だけ。

 お答えはなかなかないんだろうと思いますが、今回の逮捕されたお医者さん、患者さんが亡くなるという残念な事故があって以来、そしてそのことが、院内でしょうか、ちゃんと事故調査委員会みたいなものを開いて、そこで一定の責任を、倫理的、民事的責任を認めてということが明らかになりながらも、まさに地域でたった一人の産科のお医者さんとして地域医療に携わっていたところを突然逮捕されたという事案であります。

 こうしたケース、本当に逮捕の要件である、あるいは、検察、法務省に聞くには勾留ということだと思いますが、勾留の要件である逃亡や証拠隠滅のおそれというのはあるんでしょうか。そもそも、事故調査を病院の方でちゃんとやって、それも公表しているという状況です。そして、そのことを前提としながらも、地域医療をしっかりとたった一人で支えるという状況をやってきているところを突然逮捕して、本当に勾留の要件があるんですか、こういうケースは。

○杉浦国務大臣

 本件については、裁判所において、刑事訴訟法六十条第一項第二号の被疑者が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき及び第三号の被疑者が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときに該当するとして勾留状が発せられたものと承知をしております。また、勾留理由開示公判も行われておると承知しております。

 当否についての御質問は、個別の事案に関する裁判所の判断にかかわる事柄でございますので、法務大臣としてはお答えを差し控えさせていただきます。

○枝野委員

 大臣もよく御存じのとおり、裁判所の逮捕、勾留の要件のチェックがどれぐらい実質的にできているのかというのは、それはもう制度的にもなかなか困難で、証拠をしっかり全部把握して、だからこれは逮捕、勾留しないと逃亡とか証拠隠滅のおそれがあるとかというのは、基本的には、実態はやはり検察庁の判断にゆだねられているし、裁判所としてはそれが明らかに違うよねというときでなければ、しかも、それも証拠がほとんど手元にない中でやるわけですから、なかなか現実には不可能で、むしろ検察庁として勾留を請求したことの当否が、本当に要るのかということが問われるべきだと思うんですが、個別ですから答えられないということが続くと思いますので、時間がもったいないので先へ行きます。

 さあ、ここからが大事なところです。先ほど申しましたとおり、今回の逮捕、起訴に対しては、大変多くのお医者さんから声が上がっています。産婦人科学会等という形でも正式にありますし、それから、実はこの問題を厚生労働委員会で我が党の仙谷議員が取り上げたところ、全国のお医者さんたちから、明らかに利害関係がないと思われる産科以外のお医者さんからも、こんなことで逮捕されて個人の刑事責任を問われるんじゃ、産科のお医者さんを志す人がいなくなる、現に、ことし、ちょうど新年度になるところで産科を希望する医学生、研修医が激減をしているとか、実際に産科からほかの科の専門に変えるというお医者さんが出てきているというような声が多数上がってきております。

 こうした声、厚生労働省に寄せられている、あるいは、実際に具体的な陳情等も上がっていると思いますが、どういうふうな声が寄せられているのか、そのことについて厚生労働省としてどういうふうに受けとめているのか、お答えください。

○西川大臣政務官

 確かに、私もこの事件に関しては、テレビ、新聞等で大変大きく取り扱われておりまして、全国的に大きな国民の関心事になったことは事実だと思います。

 そういう中で、今回の、このことに関しての反論の主なものを三点ほどにまとめてみました。

 やはり、今回これは、業務上過失致死として医師を逮捕、勾留したことへの批判、異議が多いかなと思います。普通の在宅起訴でいい、せめて在宅起訴でよかったのではないかと。あるいは、これは大変厚労省としても鋭意努力してはきておりますけれども、確かに、産科医療の僻地において一人で大変厳しい勤務状況の中で働いていらっしゃるというような、いわゆるシステム的な問題にもかかわらず医師個人の責任を問われたことへの異議、それから、このことによって、今でさえ産婦人科医が不足している現実が、さらにみんなが萎縮してしまって、さらにその状況を悪くするのではないか、そういうことが主に寄せられてきたことだと思います。

 その中で、もちろん、お医者様個人がそれぞれ与えられた状況の中で最善を尽くすというのは、お医者様の使命ではあるわけですけれども、そういうことに関しまして、もちろん、私たちはこういうことを少しでもなくすための努力として、今回、産科の周産期医療の、要するに非常に厳しい状況のお産に対応するには、きちんとした中央集中をして安全な体制をつくる、そういう一つの開業医の先生方との連携、そういうことを今、今回も模索して、一つの案として今回の医療制度改革でも出しております。

 そういう中で、医師法の二十一条違反に問われたことが関係者の間で問題とされているということも認識しております。そういう中で、今後、医師個人の単なるミスであるのか、それとも、そういう環境による、過酷な状況の中での医療提供体制のやや不足な状況があるのか、その辺のところはしっかりこれから検証、対応していきたいと思っております。

○枝野委員

 法務大臣にも同じような趣旨のことを伺います。

 先ほど私が申し上げたような、本当に産科のお医者さんのなり手がいなくなるどころか、こういうことで、少なくともお医者さんたちは、私はかなりの人たちだと思いますが、このレベルのことで、つまり、おなかの中にメスを忘れてきちゃったとかそういうレベルとはちょっと違う事案だという前提のようですが、こういうケースでまで個人の刑事責任を問われて逮捕されるようなことでは、とてもじゃないけれどもメスを持つような医療なんか危なくてできないわということで、外科すら減っていくぞというような声まで上がっているんです。

 こういった声がたくさん上がっているということを法務大臣は認識されているのか、それに対してどういう思いを持っておられるのか、お答えください。

○杉浦国務大臣

 所見を述べることは差し控えさせていただきますが、さまざまな御意見が表明されていることは承知しております。

 法務省に文書で参った一通、その他意見はさまざま寄せられておりますが、文書を御紹介いたしますと、これは全国周産期医療連絡協議会代表末原則幸さんとおっしゃる方でございますが、この連絡協議会の意見として寄せられたものが文書でございますが、これによりますと、

  全国各地域において周産期医療をささえる責務のある高次周産期医療施設の集まりである本会としても、 たくさんの方が示しておられますが、  日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同声明ならびに、新生児医療連絡協議会の声明を強く支持せざるを得ません。

  世界に誇れる日本の周産期医療において最善を尽くし診療に当たったとしても、ある一定の頻度で不幸な出来事が起こることを避けることはできません。このことは、一般の産科医療施設のみならず、三次あるいは二次施設としての総合・地域周産期母子医療センターにおいても同様です。今回の不幸な出来事が一人の医師個人の責任として問われたこと、また逮捕・起訴にまで至ったことには疑問を抱かざるを得ません。

  さらに今回のことが、近年問題となっている産科を志す医学生の減少、全国的な産科医不足、産科医療施設の閉鎖に一層拍車をかけ、地域の周産期医療が崩壊し、安全で安心なお産ができる地域が激減してしまうのではないかとたいへん危惧しております。 という御意見が文書で寄せられております。

 そのほか、口頭でも同種類の御意見はさまざま寄せられております。

 事件につきましては、検察当局において所要の捜査を遂げて、法と証拠に基づいて適正に対処したものと承知しておりますが、こういう意見はさまざま寄せられております。

○枝野委員

 コメントしていただけないんでしょうか。つまり、この個別の事件が罪に問われるべきであるのかどうかということは、それはもちろん法務大臣にはお答えになれない世界だし、お答えになっちゃいけない世界だというふうに思います。

 しかし、現実に法務省のもとの検察庁が起訴をした。そのことによって、今のような日本の産科医療、産婦人科医療、特に僻地医療の部分のところについて相当なマイナスが生じるかもしれないというかなり切実な声が寄せられているのは間違いないわけで、そのことに対して、法務大臣として、あるいは国務大臣として、何のコメントもないんですか。コメントのしようは何かないですか。

○杉浦国務大臣

 個別の事件についてのコメントは申し上げられませんけれども、私の地域でもそうですし、全国そうだと思いますが、産婦人科医不足、小児科医不足は大きな問題になっております。この事件とかかわりなく大変深刻な問題で、これは国としてもあるいは政治としても対処しなきゃいけないんだなという認識は持っております。

○枝野委員

 お答えをいただけないのでこちらから誘導していきますけれども、まず、そもそも今回、業務上過失致死罪で逮捕、起訴されています。業務上過失致死罪で最も件数の多いのは、大臣も御存じだと思いますが、交通事故ですよね。交通事故で間違って人をはねて殺しちゃったという話と同じ罪名、同じ業務上過失で認定をされるんですよ。

 私も、もちろん法律家ですから、その理屈はわかっています。業務の定義はどうで、過失の定義はどうでということはわかっていますが、一般常識から考えたら、今や車の運転をするというのは特殊な専門技術でもないです。一応免許制度ではありますけれども、ほとんどの人がちょっと訓練をすれば運転免許を持って車を運転する。そこでミスをしてしまったというミスについての判断と、まさに専門的な、まして医療は日々高度化をしていく、その最先端の専門的な技術、知識を要する場面においてミスをしてしまったという話とが同じ業務上過失ということで、それ以上の基準、例えば交通事故ならばこういう場合が過失なんですよ、医療ミスならばこういう場合が過失なんですよ、抽象的に先ほどおっしゃられたとおり、一般の医師の能力、知識を前提に、交通事故の場合も一般的なドライバーの知識、能力を前提に、一緒なんですよ。

 その法制度自体、少なくとも、例えばお医者さんから見れば、おれたちのやっていることは車の運転と一緒かという受けとめられ方をするんじゃないでしょうか。どう思います、大臣。

○杉浦国務大臣

 医療過誤の事案につきまして、医師に対する刑事責任の追及を控えるべきであるとする御意見があることは承知しております。しかし、医療過誤事案について、医師の過失により人を死傷させたと認められるのにその刑事責任を一切不問にするということは、被害者を初めとする国民の理解を得ることは困難であると思いますし、先生もそこまではおっしゃらないと思います。

 医師のように専門的知識に基づいて人の生死にかかわる業種であっても、事案はあくまでも個別ですが、個別の事案において医師として尽くすべき注意義務というものは必ず存在し、それを尽くさずに過失により人を死傷させたと認められる場合について刑事責任を一切不問にすることは、これは被害者を初めとする国民の理解を得ることは困難であると私は思います。

○枝野委員

 大臣も御理解いただいているとおり、一部には医師の個人の刑事責任は問わない、各国ともそうなんだというような声があるのを知っています。私は、それは違うだろうと思います。私自身が、薬害エイズ問題では、逆にちゃんと刑事訴追をしろということを委員会などの場で求めた立場です。

 ただ、先ほど申し上げましたのは、まさに業務上の過失と言っても千差万別、いろいろある。高度な専門的な技術に基づく場合もあるし、ある意味では、五十年前はどうだったかは別としても、今や、まさに日常的にみんなが暮らしている中でのミスという話もある。それが一つの業務上過失致死罪ということだけで、あとは基本的には現場の司法の世界の判断に任されているということ自体が、もう時代に合わなくなっているのではないのか。

 今回のケースを機に、例えばお医者さんも、ちゃんと普通にやっていれば刑事責任に問われることはないんだという安心感を持っていただける、そして、ただし、本当に先ほど来、これくらいの例しか出てきませんが、おなかの中にはさみを忘れてきちゃったみたいな、これはひどいじゃないかという話はちゃんと処分をする、刑事処分をするというような線がはっきりわかるような、これは法律まで変える必要があるのかどうかは、いろいろ議論があるかもしれません。

 しかし、そうしたことの基準づくりというのを法務省と厚生労働省で協力して進めていかないと、実際に今危惧されているように、いや、今既に、現に僻地における医療、高度な医療を担ってくれる人が少なくて困っているという中で、あるいは、今現に、大都市部はともかくとして、産科のお医者さんが少なくて、なり手が少なくて困っているという現状の中でこれを深刻化させるということは、大臣は法務大臣であると同時に国務大臣なんですから、この国の国政全般に責任を持っているんですから、そこについて何らかのメッセージ、何らかの今後の改善策ということのメッセージが出なければ、これは今まさにお医者さんたちの世界から上がっている声が本当に加速をしていったら、これはまた別のところでたくさんの命を失わせることになるんです。大臣の見解を求めます。

○杉浦国務大臣

 医療過誤事件と申しますか、医師の過失が刑事上問われている事件は、医師の方々が全国で日々業務に従事されているわけですが、それに比べたら本当に微々たる、正確に数字を挙げるまでもなく、ほんの一部だと思うんですね。大部分の医療行為は正当に行われ、患者さんが治療を受けて、満足しておられると思っております。

 その中で、業務上過失致死傷として問われる医療行為も、もちろん少ないけれどもあるわけですけれども、それが犯罪を構成するかどうかということは、あくまでも個別の事案において収集された証拠に基づいて判断されるべき事柄であることは申し上げるまでもございませんし、医療過誤におきましては、私も数少ないですけれども事件をやったことからわかるんですけれども、さまざまな場面で要求される注意義務の内容はまさに千差万別でございまして、一般的にどのような場合に刑事責任を問われるのかを明らかにすることは困難である。先ほど、判例、学説を御紹介いたしましたが、非常に困難であるということは先生ならば御理解いただけると思います。

○枝野委員

 大臣、繰り返しますが、大臣は法務大臣であると同時に国務大臣なんですからね。法と証拠に基づいて刑事訴訟が行われなきゃいけない、それはもうよくわかっています。と同時に、だけれども、大臣、なぜ法務大臣には検察庁に対する指揮権があるんですか。政治家を免責させるために指揮権があるんじゃないですよね。法務大臣には指揮権がある、検察に対する指揮権があるということの意味、御理解されていますか。

○杉浦国務大臣

 承知いたしております。

○枝野委員

 私、本件をそうしろと言いたいわけではありません。ただ、本件の逮捕、起訴を受けて、少なくとも多くの全国のお医者さんたちが、こんなことで逮捕されるのではとてもリスクの高い手術には対応できませんよという声が上がっているわけですよ。まして産科医療というのは、まさに常にリスクを伴っている医療だというふうに聞いています。とてもじゃないけれども、そんなところ、怖くてできない、どこで自分が刑事被告人にされるかわからないという声が上がっているんですよ。

 そういったことを放置しておくということは、これは政府、行政府として許されることではないと僕は思うんです。解決策は、まさに今回のケースがどういうケースであったのか。先ほど来繰り返し申し上げているような、つまり、これじゃ確かに個人の刑事責任を問われても仕方がないですねと心あるお医者さんだったら理解をされるような、極端なことを言えば、おなかの中にはさみを置いてきちゃったみたいな話のようなケースで、だから、こういうケースだから逮捕、起訴されたんですよと。普通にまじめにやっていて、一生懸命やったけれども、そして普通のお医者さんの能力、知識で最善を尽くして、それでも死に至るケースというのは、まさにリスクの高い高度医療ほどあるわけですから、そういうときに逮捕されたり起訴されたりというわけではないんですよということならば、そのことをちゃんと調べて、そのことをしかるべく公表して、したがって安心してくださいということをする責任が少なくとも政府にはあるんだと私は思います。

 そして、そういったことについて、さあ、検察庁の持っている証拠関係で、本当にこれがそういうケースなのか、それとも、お医者さんたちの一部あるいは多くの人たちが言っているように、こんなケースまで起訴されたらとても医療なんかやっていられないとお医者さんたちが思うような、もしかするとケースを単純に、まさに業務上過失致死罪という構成要件に該当するから、だから、それに気がついたから逮捕しました、起訴しましたという話なのか。そのことをちゃんと、できるだけ早く政府として、その責任者は法務大臣だと思います。そのことを把握して、どちらなのかを判断して、そしてそれに応じたメッセージを発信しないと、日本の医療はだめになるんじゃないですか。大臣、どうですか。

○杉浦国務大臣

 御指摘になられた事件につきましては、現在、福島地方裁判所に公判係属中でございまして、福島地方裁判所において適切に審理されるものと考えております。

○枝野委員

 大臣、日本の検察は起訴便宜主義ですよね。構成要件に該当して、違法性があって、責任があっても、起訴するか起訴しないかというのは検察官の裁量に任されている。違いますか。

○杉浦国務大臣

 承知をしておりますが、本件については、福島地方裁判所に公訴を提起し、公判が開始されておりますので、そこで適切に審理されるものと承知をしております。

○枝野委員

 日本の刑事訴訟法には、公訴の取り下げという手続はないんですか。

○杉浦国務大臣

 そういうことは考えておりません。

○枝野委員

 私は、そうしろと言っているんじゃない。そういう手続はあるんですよね。あるんですから。起訴しちゃったんだから、あとは裁判所の判断ですで本当に日本の医療はいいんですかと言っているんですよ。

 いや、確かにそういうケースなのかもしれない。それはわからないんです。わからないことを調べられるのは法務大臣なんですよ。検察庁に対する指揮権を持っていて。今検察庁が持っている証拠関係、しっかりと精査をして、別の視点で精査をして、起訴したんだから、確かに構成要件該当性と違法性と責任は法形式的にはあるんでしょう、さすがに。あるんだろうけれども、しかし、このケースまで起訴をしていたら、日本の産科医療とか僻地医療とかということに大きな影響を及ぼすケースなのか、それとも、いや、それは危惧ですよ、お医者さんたちの心配のし過ぎですよ、そういうケースなのか。

 そのことをちゃんときちっともう一つの目で分析をして、そのことに対してメッセージを発信しないと、これはもし裁判で争われればどれぐらいかかるかわかりませんよね。まさに医療のミスについての刑事裁判だなんというのは。その間、判断が出てこない、結論が出てこない。その間に日本の産科医療はどうなっていくんですか。

 私は、今ここで結論を出してくれとは言っていないんです。法務大臣として、そういう危機感を共有していただいて、結論としてどういう選択肢をとるかは別として、少なくとも、今お医者さんたちからたくさん声が上がっている、もう産科のお医者さんなんかやれないわ、やめちゃえ、もっとリスクの低い医療でいいわというようなことに向かっている声に対して何らかの対応をするという、そのことのメッセージだけでもいただけませんか、大臣。

○杉浦国務大臣

 先ほど申し上げましたが、日本の医療の世界で産科医不足、小児科医不足、深刻な事態があることは認識しております。これは厚生労働省が中心となって、文科省も関係しますか、対応していくべき問題だと思います。

 本件は、検察当局が法と証拠に基づいて既に公訴を提起し、福島地方裁判所で審理が始まっておるわけでございますから、法務大臣の立場ではコメントすべきではない、こう思っております。

○河野副大臣

 国務大臣でもございませんが、一言申し上げさせていただきたいと思います。

 私は、ずっと臓器移植法の問題を追いかけておりました。似たような問題がやはりあるんですね。

 それで、今ずっと枝野さんがおっしゃっていたような、どの時点で医師の罪が問われるのかというような問題、日本で何でこういう事態になるか。これは私の全くの私見でございますが、今の日本のお医者様、プロフェッショナルであり、国家試験を通って医師の免許を持った人たちが、弁護士さんと違って自己統治をするシステムがございません。医師会というのはございますが、これはあくまで任意に入る団体であります。本来ならば、プロフェッショナルであるお医者様が自己統治をするシステムというのがあって、そこがきちっと判断をする、そういう仕組みにしていかなければならないんだろうと思います。今問われなければいけないのは、そういうシステムの問題ではないかと思います。

○枝野委員

 時間になりました。同僚議員が、もう一つ、尊厳死の問題で、やはりお医者さんの責任がどこまでどうあるのかということを問いますが、西川政務官、お忙しい中来ていただきましたが、ぜひ厚生労働大臣によくお伝えください。そして、これは厚生労働大臣と法務大臣とでしっかりと話し合っていただいて、どっちのケースなのかはっきりさせてもらえばいいんですよ、法務大臣。これが本当に、お医者さんたちの危惧は危惧で、それは杞憂だとわかるようにしてくれるんだったら、それはそれでいいんですよ。ああ、こういう事案だったらしようがないなとお医者さんたちがみんな思ってくれれば、それはそれでいいんです。そう思っているんだったら、そうしてくださいよ。そうでないんだったら、お医者さんたちの危惧に対してどうこたえられるのかということをちゃんとやる。その責任は内閣にあるし、そのことは厚生労働大臣から法務大臣に強く求めていただいて、そこで協議をして、実態を明らかにさせていただきたいと強くお願いして、質問を終わります。

 ありがとうございました。

<他の議員の発言部分省略>