[全体を通しての締め括りの自由討論]
○枝野委員
衆議院憲法調査会の五年間に及ぶ調査が一区切りをつけるのに当たりまして、民主党・無所属クラブを代表して発言させていただきます。
まずは、この五年間にわたりまして一貫して重責を担われてこられた中山太郎会長、そして会長とともにこの議論のレールを敷いてこられた歴代の会長代理、鹿野道彦先生、中野寛成現副議長、仙谷由人衆議院議員、そして歴代の幹事、委員の皆さんの努力に敬意を表すとともに、こうした皆様方の努力の結果としてこの五年間、建設的な議論ができたことを高く評価し、敬意を表したいと思います。
特に、この五年間に、今も若干残っているとはいいながらも、イデオロギー的、抽象的な議論から脱却した具体的な議論、あるいは護憲改憲二元論という本来論理的にはあり得ない議論、こうしたものから脱却をしつつある流れができているということを私は高く評したいと思います。
ここで、護憲改憲二元論について一言申し上げておきたいと思いますが、そもそも護憲か改憲かということで物事を二分するということは、論理的にあり得ません。憲法を変えないという考え方、意見については、理由はともかくとして、変えないという点で一つでありますが、変えるという主張については、どう変えるのかということによって多種多様な改憲論があるわけでして、それを一くくりにして護憲に対して改憲と称して二元的に物をとらえるのは、論理的に間違っているというふうに思います。
私はあえてこの場で指摘をしたいと思いますが、例えば、自衛隊の海外派遣を一切否定する考え方、意見、あるいは自衛隊そのものを否定する意見がよく護憲派と称されておりますが、そもそもこのこと自体が私は不自然ではないかと思っています。
現行の憲法のもとで自衛隊については大方合憲という意見が強く、またその範囲についてはいろいろな意見があるものの、一定の条件のもとでは自衛隊が海外で活動することを認める意見が多数であるという中で、もしこうした意見を持っているのであるならば、例えば自衛隊の海外派遣は認めないとか自衛力は放棄するとか、こういう条項を憲法典に加えるべきというむしろ改正の意見を述べるのが論理的に正しいというふうに思っておりまして、こうした意見を持っている方が、憲法を変えない、護憲というふうに分類をされる、あるいはそういった主張をされることは、私は不自然であるというふうに申し上げておきたいと思います。
さて、この五年間で、私は、憲法に関する論点はほぼ網羅され明らかになってきたというふうに思っています。ここから大切なことが、私は二つあると思っております。
一つは、憲法制定権者は私たち国会ではなくて国民であるという基本であります。
私たちは選挙によって選ばれて法律をつくる、あるいは議院内閣制のもとで行政権を担われる皆さんは行政を執行する、このことについては国民の皆さんから負託をされております。しかし、憲法については国会が決めろとは言っていません。国会はあくまでも発議を求められているのであって、決める権限、権力を持っているのは国民であるということを私たちはきちっと再認識するべきであるというふうに思います。
そうした観点から、この五年間の議論を踏まえて、これから重要なことは、まず第一に、憲法に対する国民的な関心を喚起していかなければならないということだというふうに思います。残念ながら、憲法については、一部の皆さんは大変強い関心を持っておりますが、国民全体ということを考えたときには必ずしも高い関心が示されているとは言えない状況にあるというふうに私は思っております。
さらに言えば、これからもし、仮に改正ということを目指していくのであるとするならば、国民的なコンセンサスをしっかりと把握するとともに、さらにこのコンセンサスを形成していく努力こそが何よりも求められていくということであります。私が危惧をいたしますのは、もし我々が、憲法をつくる、変える権限は国民にあるということを忘れてしまって、自分たちが憲法を変えるんだというような意思で走ってしまいますと、国民的な関心やコンセンサスと離れたところで物事が進み、結果的に将来の憲法改正の国民投票の投票率が低くなったり、あるいは場合によっては否決をされるようなことになりかねないということであります。
六十年近く憲法が変わらないでまいりました。もし最初の国民投票の投票率が余りにも低い、あるいは否決をされるというような事態になれば、また憲法議論そのものがタブーになりかねません。私たちはそのリスクをしっかりと考えて、国民世論の喚起と国民のコンセンサスづくりということを主眼に物を進めていかなければならない、このことを第一に指摘しておきたいというふうに思います。
第二に、これは前回来もお話になっております、先ほど保岡さんからもこれに関するお話がありましたが、現行憲法は、改正の発議を国会の三分の二という要件を求めています。この規定そのものに対する賛否はいろいろあるかもしれませんが、少なくとも現行憲法は三分の二を必要としております。
これは、国会内の第一勢力と第二勢力で過半数を争い、政権を争う構造とは別の構造で物事を進めろということを示していることにほかなりません。そして、日常的には政権を争うという形で相互に争い合う、競い合う関係にある第一勢力と第二勢力との間でコンセンサスを得ていくためには、大変な知恵と配慮が必要であるということを申し上げておかなければいけないというふうに思います。政党間の個性、政党間の違いを強調していけば、当然のことながらコンセンサスからは遠ざかってまいります。憲法は、第一勢力と第二勢力との間で、我々が公権力を行使する上での共通のルールを書けということでありますので、その意識をしっかりとしていかなければならないというふうに思います。
現実的に、これから党であるとか個人であるとかの自己主張が強くなれば強くなるほど、三分の二というコンセンサスからは遠ざかってまいります。憲法改正を強く主張するが余り、自己主張が強まれば強まるほどむしろ改正から遠ざかっていくという実態と現実を冷静に見きわめていただきたいというふうに思います。
もちろん、私、これまでは、そもそも憲法にどういう論点があるのかということを喚起し、共通認識を持っていくために、それぞれがそれぞれの思いに基づいていろいろな主張をすることで網羅的に論点を拾っていくということで、ここまでの議論のプロセスとしては、さまざまな強い自己主張というものが一定の意味はあったというふうに思っておりますが、これから国会の中で三分の二を形成し、さらに国民の世論を喚起してその二分の一の賛成を形成していこうとするならば、自己主張を抑制し、むしろ何が共通点であるかということを優先して議論し、協議していかなければならないということを強く訴えたいというふうに思っております。
そして、こうした自己主張よりも共通点を探っていくという話を進めていく上で、先ほど保岡自民党憲法調査会長からもお話がありましたが、憲法改正の手続について議論を進めていくということは、憲法改正そのものの中身についての議論が円滑に進んでいくのかどうか、つまり三分の二が形成できるのかどうかということに対する重要なトライアルであるというふうに思っております。
私は、先ほど申しましたとおり、中山太郎会長を初めとする皆さんの御尽力によりまして、本憲法調査会におけるさまざまな議論、あるいは調査会運営に当たりましては、こうした憲法の持つ意味、コンセンサスをつくり上げていかなきゃならないという思いというものが十分に感じられる中で物事が進んできておりまして、そうした視点の中から、憲法改正手続法を含めて、少なくともこれについて積極的に関心を持つ政党間で協議をし得る土壌はあるというふうに思いたいと思っておりますが、残念ながら、この憲法調査会を離れれば、今現在も財務金融委員会や総務委員会などで、あるいは年金をめぐるさまざまなプロセスの中で、与野党間の信頼に基づく協議の邪魔になるような動きを積極的になさっている方が一部に見受けられるということを大変遺憾に思っております。
私は、中山太郎会長を初めとする自由民主党や公明党内の良識ある皆さんのこれからの党内における力を期待し、そうした皆さんの主導のもとで、前向きで建設的な憲法議論がさらに進んでいくことを期待したいということを申し上げて、発言を終わらせていただきます。
以上です。