[民主党調査会中間報告について陳述]
○枝野
まず初めに、民主党は、本年一月の党大会における代表あいさつにおいて、二〇〇六年までに党としての憲法改正草案を提示することといたしております。また、本調査会初め衆参両院の憲法調査会は、来年一月をもって当初の申し合わせである丸五年を迎えます。こうした状況に対応をいたしまして、民主党憲法調査会としましては、本年末ごろを一つのめどとして、民主党の憲法提案を取りまとめることといたしております。
今回まとめました中間報告、中間提言は、こうした展望のもとに準備され、取りまとめられたものでございます。課題のすべてを網羅しているわけではありませんが、およそ憲法問題の主要な課題について党内議論の成果を紹介いたしております。お手元に配付されているものは、その要約バージョンでございます。私どもは、今後、これを一つのベースとして、国民的な議論を沸き起こしていくことが重要であると考えております。
さて、民主党は、一九九九年十一月に党の憲法調査会を立ち上げ、その際、論憲という立場を明確に掲げました。すなわち、民主党は、二十一世紀のこの国の形を構想する立場から、あらゆる問題について自由濶達に議論する論憲の立場に立つ、その議論は、従来の改憲、護憲の論議にとらわれぬ幅広い、開かれたものとすべきであるというものであります。
また、二〇〇一年十二月に取りまとめた中間報告では、新しい憲法を打ち立てるという決意で憲法論議を進めていくことを高らかに掲げております。すなわち、「そもそも、国のかたちの骨格をなす憲法は、世界の変化にも動じない普遍的な原理をうち立てるとともに、新しい課題にも対応できる優れた対応力・包容力も持っていなければならない。常に歴史を振り返り、新しい課題に挑戦する進取の気風をもって憲法をも議論のテーブルにのせる能動的な姿勢が、いま必要だ」と呼びかけたものであります。
民主党は、単なる護憲、改憲の枠を超えて、歴史の変化を踏まえたスケールの大きな憲法論議を沸き起こしたいと考えております。本日お配りさせていただいた中間提言も、こうした観点から取りまとめたものでございます。
ここで、改めて、民主党が取り組んでいる憲法調査会の活動と議論の基本的方向性について、この中間提言の内容に沿って、特に七つの点について報告をさせていただきたいと思います。
まず第一に、過去に向かって古きよき日本を求めて議論をするのではなく、未来に向かって新しい日本の姿を構想し、その上で憲法のあり方を検討するということが重要だということです。これが我が党の譲れない基本的な立場であります。従来までの護憲、改憲論議は、ややもすると、過去の歴史に足をとどめたまま、五十年前の戦後憲法は一言一句変えたくない、あるいは、百年前の懐かしき時代をゆがめた戦後憲法こそ世の中の元凶といった議論を繰り返してきたのではないでしょうか。中間提言にも触れているとおり、私たちは、そのいずれにもくみせず、歴史の前に向かって大いなる憲法構想を打ち立てたいと考えております。
こうした正面からの憲法論議を避け、その場しのぎの憲法解釈で既成事実を積み重ねる政府のやり方は、憲法の空洞化、形骸化を招くものであり、ひいては国民の憲法に対する信頼を損ねるものであります。場当たり的で、その場しのぎのやり方で事を済ませるのではなく、スケールの大きな構想力に裏づけられた憲法論議が、今この国の政治に求められている第一のポイントであると考えます。
第二に、民主党は、現在の日本国憲法の根本規範であります国民主権、基本的人権の尊重及び平和主義については、これを尊重し、その深化を図ることを基本としております。憲法は、長い時間とともに深く国民生活の中に浸透し、いわば社会規範としても定着するものであることが望ましいと思われます。この考え方に立って、戦後日本においてあまねく定着してきた憲法の根本規範については、これを最大限尊重し、それに基づいて、以下のような憲法論議を推進していくというのが我が党の基本的な姿勢です。
すなわち、中間提言では、一つ、世界に対して国のあり方を示す宣言、二つ、未来に向けた日本国民の意思や精神の明示、そして三つ目に、国の活動を律する枠組み、こうした三つの性格をあわせ持つ新しいタイプの憲法を構想したいと提案しております。これは、押しつけ憲法論を振りかざして、国民の間に蓄積された憲法に対する信頼を押し流すような暴論は、我々の選択する道ではないということであります。また、米国に気兼ねし、おもねり、日米関係のために憲法条文を改正するというこそくな憲法論議にもくみしないということを意味しております。
第三に、現行の日本国憲法にもうたわれている国際主義の立場をさらに鮮明にするということであります。
二十一世紀初頭の世界の大きな流れを受けとめ、例えば、現在のEUが典型的な動きを示しているとおり、主権の移譲もしくは主権の共有といった考え方を含めた大胆な議論を進めていくということであります。この姿勢の裏には、戦後、日本国憲法の基本精神の重要な柱の一つとして、世界とともに生きるという国際協調主義の精神があるとの認識があります。民主党は、これをさらに進めて、この国を国際社会とともに行動する日本へと転換させていきたいと考えております。
中間提言では、安全保障についても、一国の枠組みで自己完結的に考えるのではなく、何よりもまず、国際社会との協調を前面に押し立ててそのあり方を検討すべきだとしております。より具体的には、なし崩し的な自衛隊の海外派遣を放置することなく、一つに、国際協調主義の立場に立って、国連の集団安全保障活動に積極的に関与できることを明確にし、二つに、専守防衛に徹した限定された自衛権についても明記することを提案しております。
第四に、この国の統治システムを二重の意味で変革するということを考えております。
二重というのは、一つには国民主権の徹底であります。あらゆる場面で国民の意思が自由に率直に反映される仕組みを追求することが必要であると考えています。例えば、提言では、司法制度改革における国民参加の促進や、あるいは国民投票制度の検討、さらにはオンブズマン制度の整備など、国民一人一人の声を尊重する、そしてそれを国政に反映させていく仕組みの確立を盛り込んでおります。
いま一つは、政治主導の内閣、総理主導の政府の確立であります。
激動する世界に対応する迅速で指導力ある政府をどのように実現するかは統治の基本問題であります。しかし、今日のような、政官業癒着の構造そのままに総理大臣のリーダーシップを拘束するようなシステムが続いている限り、改革は望めません。
提言では、内閣総理大臣の執行権を明確にするとともに、政治と官僚システムとの関係についても大胆に見直して、利益誘導政治の弊害を除去できる仕組みへと転換するよう提言をいたしております。また、現行の二院制の見直し、あるいは政党を憲法上の存在として位置づけることなどについても触れております。
第五に、この国の形に直結する大きなテーマとしての分権社会の形成について述べさせていただいております。
民主党は、どの党よりも、これからの日本は国民のエネルギーに信頼を置いた自律社会の実現を目指すべきであると強い思いを持って政治に取り組んでおります。それは、一方では市場における自由な企業活動の促進であると同時に、地域に根差し、地域で自己決定する自治の力を開花させることによって初めて可能となるものであります。
中間提言では、現行憲法の第八章に掲げる地方自治の本旨のより具体化を提言しております。例えば、一つには、中央政府と地方政府とが対等であるとの原則を憲法上明記すること。あるいは、二つ目には補完性の原理、つまり、中央政府は地方政府ではどうしてもなしえない業務を補完するというのが役割であるということをしっかりと憲法上採用し明記すること、あるいは課税自主権を明記することなどを提案しております。
第六に、人権については、二つの視点から議論を進めています。
一つは、国際的な視点であります。人権は、既に世界人権宣言や国際人権条約を初めとして国際法秩序が成熟しつつある分野であり、我が国の憲法についても、この国際社会の水準に合わせた人権保障のレベルを確立することが必要であると考えています。提言は、こうした観点に立って、環境権、知る権利、自己決定権など、諸外国の事例も参考にしつつ、国際スタンダードに見合った新しい権利の具体化を提示しています。
もう一つは、憲法の根本原理でもある個人の尊厳を守り抜くため、公正で独立性の高い、憲法上の位置づけを持った人権保障・救済機関の設置を検討すると提起しています。具体的に、独立した第三者機関としての人権委員会の創設を提言し、それを、例えば現行の会計検査院の場合に倣って、憲法上の機関として位置づけるべきであるとしております。
最後、七番目に、私たちは、従来の護憲とか改憲、右とか左、保守とか革新、こうしたことの前に、この国のすばらしい憲法を国民生活の中に生かすということに戦後政治は余りにもむとんちゃくではなかったか、反省してみる必要があると考えております。
それは、一つには、我が国の司法制度の中で、いわゆる違憲審査機能が十分に備わらず、機能していないのではないかという疑問であり、もう一つ、初めに行政ありきの風潮によって国民の生活や権利がともすれば二の次にされるという戦前からのお上意識を克服することなく過ごしてきたのではないか。そして、こうした事態は、私たち政治家にその責任の一端があるというべきではないかと位置づけております。
こうした反省に立ち、提言の中では、人権保障や憲法秩序の保護、そのもとでの法の支配を確立するため、我が国においても、ヨーロッパや韓国のように、違憲審査を担う憲法裁判所の創設を行うべきであるのではないかといったことを提案いたしております。
私どもは、こうした多くの具体的な提案とともに、さらに大いなる憲法議論を党内的にも進めてまいりたいと思っておりますが、特にこの憲法議論を進めるに当たって重要なことは、政治家やあるいは一部の識者によってこの議論が進んでいくのではなくて、国民各界各層において共通の認識のもとの議論が展開をされ、そして、その国民的な議論に基づいて我が国の憲法の今後のあり方が決められていくということであると考えております。
こうした国民的な議論を展開していく上で、この調査会の議論はもとより、我が党の憲法調査会の今回の中間報告が一つの議論のたたき台あるいは出発点となることを期待するものであります。
以上、御報告申し上げます。